こんにちは。静岡市葵区呉服町の矯正歯科、ブライフ矯正歯科・院長の平塚です。
矯正治療のリスクのひとつとして「歯根吸収」があります。
「歯根吸収」とは簡単に言うと、読んで字の如く「歯」の「根」っこが「吸収」、つまり短くなってしまう現象を指します。
そのほか、代表的なリスクとしては歯ぐきが下がってしまう「歯肉退縮」がありますが、それについてはまたの機会に解説したいと思います。
今回は矯正治療の代表的なリスクである「歯根吸収」について解説していきます。
歯根吸収とは
歯は、歯周組織と呼ばれる歯肉や、顎の骨に支えられて1本1本植立しています。
お口を覗いた時に、見える歯の頭の部分を歯冠、直下にある歯ぐきの中に埋まっている部分を歯根と呼びます。
この歯根が、何らかの影響により、本来の状態よりも短くなることが“歯根吸収”です。
もちろん矯正治療によって、必ずしも歯根吸収が起こるわけではありません。
歯根吸収が起こった場合にも、歯列全体のうちのある一部分の歯に起こる現象です。
具体的には、歯根が複数ある臼歯部よりも、前歯のような単根の場合に起きやすいと言われています。
特に上顎の前歯に起こることが多いですが、わずかな歯根吸収であることがほとんどであり、そういった場合は特に問題はありません。
しかし、稀に著しく歯根吸収を起こし、臨床上問題となることがあります。
歯根吸収はなぜリスクなのか?
では、歯根が短くなることは何か問題があるのでしょうか?
歯並びを治すために行った矯正治療なので、もともと歯肉の下にあって見えない歯根は、短くなっても気にならないのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、歯根が短いということは、骨の中に埋まっている部分が短い一方で、表に出ている部分の歯冠は変わりませんので比率が悪くなってしまいます。
建物を例に例えると、基礎の弱い高層ビルになってしまうことになります。当然、地震などには弱くなってしまうことは想像がつくと思います。
それは歯でも同様で、治療直後には問題がなくても、将来的に歯周病が進行した場合や、加齢による歯肉退縮が起こった場合には、歯がグラグラして早期に抜けるリスクが高くなってしまいます。
歯列矯正治療ではなぜ歯根吸収のリスクがあるのか?
外傷など歯列矯正治療以外にも、歯根吸収を起こす原因はいくつかあります。
しかし、歯列矯正治療による歯根吸収は、外傷のような不慮の事故ではなく、矯正治療によって引き起こされるマイナスの側面であることが問題です。
では、歯列矯正治療ではなぜ歯根吸収が起こるのでしょうか。
現在想定されている要因をいくつかご説明いたします。
①ジグリング
ジグリングとは、違う方向の傾斜移動を繰り返すことです。
例えば、前歯を前方に傾斜させたにも関わらず、再度後方に傾斜させるなどの動きを指します。
この際、歯根の先端には負荷がかかり、歯根吸収のリスクが高まると言われています。
後戻りが原因などで矯正治療を繰り返すことも、ジグリングを起こす危険性を高めます。
②過剰な負荷
次に考えられる原因として、歯を移動させる際に付与する力の強さが挙げられます。
ワイヤー矯正の場合も、インビザラインによるマウスピース矯正の場合にも、装置によって歯に対し力の負荷が継続してかかっていることにより歯が移動するメカニズムです。
力を加えることで、顎骨は、骨吸収と骨添加を繰り返しながら歯列が移動しますが、負荷が強すぎると歯根吸収の原因となってしまいます。
適切な装置や負荷によって、効果的で安全な治療を受けることが大切です。
▽関連ブログ→矯正治療で、歯はどうして動くの??歯が動くメカニズムを解説します!
③喘息
これは現在まだ研究段階ではありますが、喘息が歯根吸収のリスク因子であることが報告されております。
細かな機序はこちらでは割愛させていただきますが、喘息をお持ちの患者様は注意した方が良いでしょう。
④原因不明
ジグリングや過度な力を加えておらず、喘息もない患者様が歯根吸収を起こすことがあります。
もしかすると、この原因不明が一番多いように思います。
過去の経験からなので、明確なエビデンスがあるわけではないのですが、弱い力で治療を行い、ジグリングもさせていないのに歯根吸収してしまうことがあります。
まとめ
矯正治療自体、少ない数ではありますが、歯根吸収が起こるリスクがあることは事実です。
ジグリングや過剰な負荷といった治療上の手技によるリスクは、歯科医師の技術により減らすことができますが、原因不明で歯根吸収を起こすことも多いのです。
これについては現状避けることができないため、重症化する前に気づくことが必要となります。ですので、当院では矯正治療中に定期的にレントゲンを撮影し、歯根の状態をチェックするようにしています。
▽関連ブログ→歯科のレントゲン撮影での被曝量について解説します。正しい知識を持てば全然怖くない!!
もしも、矯正治療中に著しく歯根吸収が起きてしまった場合には、それ以上前歯を引っ込めないなど、治療目標の変更を余儀なくされることもあります。
患者さんは、矯正治療がもたらす歯根吸収のリスクについて、事前に理解しておく必要があります。
当院では、矯正治療を行う患者さんに対して、歯並びを改善することのメリットだけではなく、必ずし歯根吸収をはじめとするリスクの説明をさせていただいております。
あとで「こんなはずじゃなかった!!」とならないように、様々なリスクについてもご理解、ご納得の上で矯正治療を開始することをお勧めいたします。
もしも、歯科医師の方からそのようなマイナス面の説明がないようでしたら、患者さんの方から尋ねても良いと思います。
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