通い慣れた矯正歯科から突然の「閉院のお知らせ」。
「まだ治療の途中なのにこの先どうすればいいの?」「支払ったお金は返してもらえるの?」と不安で居ても立ってもいられないのではないでしょうか。
この記事では、閉院の事実を知ったらまずすべきことや今後の対策、返金の可否について解説します。状況別に詳しく対策を紹介するので、ぜひこの記事を参考に対応を進めてください。

ブライフ矯正歯科 院長
平塚 泰三(ひらつか たいぞう)
東京医科歯科大学歯学部歯学科を卒業後、1年間の研修医を経て東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野に入局。大学院を修了し歯学博士を取得。関東を中心に複数の歯科医院にて矯正担当医として勤務。2021年11月に静岡県静岡市にてブライフ矯正歯科を開業。正しい矯正歯科治療を適正な治療費で提供するように努めている。日本矯正歯科学会認定医。
矯正歯科治療は公的健康保険適用外の自費(自由)診療です。
一般的な治療期間:2年から3年、一般的な通院回数:20回~30回
矯正歯科治療の一般的なリスクと副作用:痛み ・口腔内不潔域の拡大と自浄作用の低下・歯根への影響(歯根の短小、歯の失活、歯肉退縮、歯根露出、失活歯の歯根破折)・顎関節症状・後戻り·加齢による変化・骨癒着
矯正歯科が閉院してしまったらまず何をすれば良い?
矯正歯科から閉院のお知らせが届いたら、まずは落ち着いて以下の4つのことを確認してください。
・閉院のお知らせや案内を確認する
・契約書の内容を確認する
・治療記録やカルテの引継ぎの確認をする
・支払い方法の確認をする
順番に詳しく説明します。
閉院のお知らせや案内を確認する
閉院のお知らせには、閉院日や閉院理由、今後の治療および問い合わせ先の記載があるのが一般的です。
今後の治療について明確な記載がない場合は、閉院理由を確認する必要があります。
院長が高齢で継承者がいないといった閉院理由であれば、医院側は閉院までの準備期間があるため、治療の引継ぎ先の手配がされている場合が多いです。
一方で、院長の急病や急死による閉院の場合は、医院側も対応に追われており、今後についてすぐに伝えられる状況にないかもしれません。
また、経営不振による閉院で歯科医院が破産申立てを行った場合は、業務が弁護士に委任され、歯科医院とは連絡がとれなくなることがあります。
この場合、今後の流れについては弁護士の対応を待つことになります。
契約書の内容を確認する
契約書には通常、治療期間や費用、治療を中止する場合の精算方法などが記載されています。
そのため、内容をしっかり確認することが大切です。
ただし、矯正歯科治療の契約は「準委任契約」とされ、口約束でも成立するため、契約書がない場合もあります。
準委任契約では、それまでの治療にかかった費用を差し引いて返金する義務があるため、契約書がなくても返金を受けられる可能性があります。
参考:公益社団法人 日本矯正歯科学会「vol.35 矯正歯科治療トラブルの大きな原因 ―矯正歯科治療契約―」
治療記録やカルテの引き継ぎの確認をする
カルテや検査記録、画像データなどは、矯正歯科に問い合わせれば入手できる可能性があります。
医療機関は、患者からカルテの開示を求められた場合、個人情報保護法に基づき開示する義務があるからです。
なお、カルテや画像データの開示には、手数料やコピー代として5,000〜10,000円程度の費用がかかるのが一般的です。
転院する場合には、これまでの検査記録を転院先に提供すると治療の引継ぎがスムーズに進みます。
矯正歯科がカルテの開示に応じない場合は、弁護士に相談することで、適切な対応策をアドバイスしてもらうことができます。
支払い額の確認をする
治療費の支払いをデンタルローンにしている場合は、支払いの停止ができることがあるので、ローン会社に電話で問い合わせをします。
すでに支払いを開始している場合は、これまで支払った金額の確認をしましょう。
転院先の矯正歯科で継続治療をする場合、治療費の総額からそれまでに支払った金額が、差し引かれる場合があるためです。
矯正歯科が閉院したら治療費は返金される?
治療途中の場合は、未治療分の費用に相当する額の返金を受けられます。
これは、矯正歯科治療がほかの医療治療と同様に「準委任契約」に当たるためです。
準委任契約とは、治療の結果ではなく、治療の過程でそれまでの対価を支払うことを約束する契約のことを指します。
そのため、実際に提供されていない治療に対する費用は、返金の対象となるのが一般的です。
ただし、返金の可否は治療の種類によって異なる場合があります。
ワイヤー矯正とマウスピース矯正のケースについて見ていきましょう。
ワイヤー矯正の場合
日本臨床矯正歯科医会では、ワイヤー矯正の返金額の目安を次のように示しています。
治療のステップ(ワイヤー矯正) | 返金額の目安 |
---|---|
全歯の整列 | 60〜70%程度 |
犬歯の移動 | 40〜60%程度 |
前歯の空隙閉鎖 | 30〜40%程度 |
仕上げ | 20〜30%程度 |
保定 | 0〜5%程度 |
参考:公益社団法人 日本矯正歯科学会「日本臨床矯正歯科医会の診療報酬精算目安」
上記の指標を参考にすると、たとえば100万円の先払いをした場合、治療開始後数ヶ月の間もない段階では、60〜70万円程度戻ってくる可能性があります。
一方で、ワイヤーでの治療が終わり、後戻り防止装置を装着している保定の期間だと、返金が全くないケースが多いです。
返金についてはまず契約書を確認し、不明点は担当歯科医師に聞くか、日本臨床矯正歯科医会や消費者センターなどの第三者機関に相談しましょう。
医院側が不当に返金に応じない場合は、弁護士に相談するのも一つの手段です。
マウスピース矯正の場合
マウスピース矯正で治療初期に全てのマウスピースの制作を進めた場合は、返金ができなくなります。
すでに制作された矯正装置の費用は支払う義務があるからです。
ただ、インビザラインによるマウスピース矯正は、アカウントの引き継ぎをすることでほかの医院でも続きから治療ができるので、費用の全てが無駄になるわけではありません。
矯正歯科が閉院した後の治療方法は2パターン
通っていた矯正歯科が閉院した後も治療を継続する場合は、次の2つのパターンがあります。
・ほかの歯科医師が治療をそのまま引き継ぐ
・矯正歯科の転院をする
それぞれ詳しく解説します。
パターン1:ほかの歯科医師が治療をそのまま引き継ぐ
主に院長の病気や事故、死亡によって存続ができなくなった場合に、ほかの歯科医師に治療を引き継ぐケースがあります。
親族や従業員、または第三者が引き継ぐケースがあり、親族や従業員であれば比較的早い段階で治療を再開できる可能性が高いです。
一方で、閉院時点で継承者のあてがなく、第三者の歯科医師を探す場合には、新しい歯科医師を見つけるまでに時間ががかります。
その間は、近隣の歯科医師の代診を受けたり、ほかの矯正歯科への紹介状をもらったりといった対応を受けることになります。
パターン2:矯正歯科の転院をする
歯科医院が完全に廃業してしまった場合は、転院先を検討することになります。
閉院した矯正歯科からの紹介があるとスムーズに転院できますが、そうでない場合は自分で一から新しい矯正歯科を探さなければなりません。
新しい医院を探す作業は手間がかかりますが、治療を中断せずに継続するためには、できるだけ早めに相談に行くことが大切です。
矯正歯科を転院する際の注意点
矯正歯科を転院するうえで知っておくべき注意点は以下の3つです。
・新たに費用がかかる場合が多い
・治療期間が最初の予定より長くなる可能性がある
・転院前の矯正歯科と治療方針が違う可能性がある
それぞれ詳しく説明します。
新たに費用がかかる場合が多い
転院先では改めて検査・診断をするのが一般的なので、そのための費用がかかります。
検査・診断費用は矯正歯科によって異なりますが、50,000円程度かかるのが一般的です。
閉院した矯正歯科からの返金があったとしても、転院先での費用の総額が返金額を上回ってしまうことのほうが多い点に注意が必要です。
治療期間が最初の予定より長くなる可能性がある
転院先では、検査・診断を行い治療計画の立て直しを行います。
治療再開までに時間がかかると、その間に歯並びやかみ合わせがずれてしまい、治療期間が延びることにつながってしまいます。
そのため、転院を決めたらできるだけ早めに新しい矯正歯科を探すことが重要です。
転院前の矯正歯科と治療方針が違う可能性がある
矯正歯科治療には数多くの方法があり、歯科医師の治療方針により治療法や使用する矯正装置はさまざまです。
たとえば、ワイヤー矯正でも表側矯正は一般的ですが、裏側矯正やハーフリンガル矯正(上が裏側、下が表側)は扱っていない矯正歯科もあります。
また、ブラケットなどの器具の種類は医院ごとに使用しているものが違うので、付け替えが必要になることもあります。
治療期間や費用をできるだけ抑えるためには、転院前の医院と同様の治療法を提供している矯正歯科を選ぶことが重要です。
矯正歯科が閉院した後に新しい転院先を探すときのポイント
一度通院していた矯正歯科が閉院すると、次は安心して通える医院を選びたいと考えるのではないでしょうか。
転院先を探す際には、以下のポイントを確認することが大切です。
・治療の継続ができるか
・費用は明確か
・歯科医師の経験や実績が豊富であるか
・日本矯正歯科学会認定医であるか
・実際にカウンセリングを受け信頼できると感じるか
それぞれ詳しく見ていきましょう。
治療の継続ができるか
転院先の矯正歯科が治療の継続を受け入れてくれるかは、大事なポイントです。
転院の受け入れ実績が多くあり、体制が整っている矯正歯科を選ぶことをおすすめします。
転院の受け入れがあるかは、ホームページに記載をしている矯正歯科もあるのであらかじめ確認し、不明な点があれば直接電話で問い合わせると確実です。
また、インビザラインで治療中の場合は、アカウントの引継ぎを行うことができれば、継続治療がスムーズに進みます。
インビザライン社の公式ホームページから取り扱い医院を探したら、継続治療の受け入れがあるかをその医院に電話して問い合わせてみましょう。
費用は明確か
転院の場合は、歯科医院の料金システムによって費用に差が出やすいです。
治療済み部分の費用を総額から差し引いてくれる医院がある一方で、継続治療であっても新規と同じく一からの費用がかかる医院もあります。
現在の治療の進行度合いや、転院前の医院で精算された費用などを総合的に判断して、治療費を明確に提示してくれる矯正歯科が理想です。
また、転院先では、検査・診断費用や治療方針の変更に伴った追加の処置料がかかる可能性があることも覚えておくと良いでしょう。
歯科医師の経験や実績が豊富であるか
歯科医師に豊富な経験や実績があり、多くの症例数があるかは矯正歯科を選ぶうえで重要です。
症例数が多い医院はさまざまケースに対応した経験があるため、転院後の継続治療にも柔軟に対応できる可能性が高いです。
矯正歯科の症例数や実績は、ホームページやインターネット上の口コミで確認できます。
口コミで実績を確認する際は、治療を始めたばかりの人ではなく、治療が終了した人や長期間通っている人のものを参考にしましょう。
日本矯正歯科学会認定医であるか
日本矯正歯科学会認定医は、矯正治療に必要な高度な経験、技術、知識を備えていることを証明する資格です。
矯正歯科治療は高い専門性が必要な治療のため、治療の質を確保するためにも認定医の資格を持つ歯科医師を選ぶことをおすすめします。
日本矯正歯科学会のホームページで認定医の検索ができます。
実際にカウンセリングを受けて信頼できると感じるか
転院先を検討する際は、必ずカウンセリングを受け、信頼できる矯正歯科を選びましょう。
カウンセリング時には特に、現在の治療の引き継ぎ方法や治療費、治療期間について詳しく聞くことが大切です。
相談する際は、前の医院での治療記録があるとスムーズですが、急な閉院の場合は資料が用意できないこともあるでしょう。
そのような事情に理解があり、受け入れてくれる矯正歯科もあります。
経営破綻による矯正歯科の閉院は、2023〜2024年にかけてたびたび報道されましたが、その際、実際にいくつかの矯正歯科が継続治療の受け入れに名乗りをあげています。
また、マウスピース型矯正装置の代表的メーカーであるインビザライン社では、受け入れ可能な矯正歯科を募り、継続治療希望者に向けて転院先の案内を行いました。
しかし、継続治療ができればどこの矯正歯科でも良いわけではありません。
最後まで安心して通える矯正歯科を自分の目で見て選ぶことが大切です。
治療実績が豊富なことに加え、不安や悩みを親身になって聞いてくれたり、疑問点には納得できるまで向き合ってくれたりする歯科医師は信頼できるといえます。
今後の治療で悩んだら矯正歯科で相談しよう
通っていた矯正歯科が閉院してしまった場合でも、医院を引き継ぐ歯科医師がいたり、転院先の紹介があったりする場合は問題なく治療を継続できます。
長期間にわたり治療を中断してしまうと、歯並びがずれ、治療期間や費用が余計にかかってしまうこともあるので早めに矯正歯科に相談に行きましょう。
転院先を自分で探す際には、転院の受け入れ実績があり、継続治療が可能な医院を選ぶと費用を抑えられる可能性があります。
インターネット上の情報だけで転院先を決めるのではなく、必ずカウンセリングを受け、信頼できる矯正歯科を選ぶことが重要です。
ブライフ矯正歯科では、患者さまの悩みに寄り添い、一人ひとりに合った解決方法をご提案しています。
専用のカウンセリングルームを設け、落ち着いた空間でお話を伺えるような環境を整えております。
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